ふぃりあ第参話【蘭丸】弐

ふぃりあ
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試練ヲ終エ

「久我様…… 」
主人の無許可で私を探しに来たというにはご苦労な接待であったぞ。
「気にするな。 お前にもお前の事情があろう 」
老婆もこちらの思うことを考えたのであろうな。
「ここからまずは主人と御対面となります 」
深く頭を下げずとも良い。 連れて行っておくれ。
「婆様よ、此度の働きで死を覚悟しておるなら、ここで待ち我が帰りを待て。 無駄に散る命ほど迷惑なものも無いのでな。 ここからはアーニャと参る故 」
『アキツグ様ノ言葉ノ通リ待ッテイテ 』
「慈悲を戴いたのですな。 アノ子は可哀想な子です。 お願いします 」
興味持てばなるようになるともさ。
殺そうとは今思ってなどおらん。 ただ会いたいのさ。
「また無駄に広い屋敷だな…… 」
『アキツグ様ハスグ迷子ニナリマスネ 』
屋敷の従者に無言のまま案内されること、半刻は経とうか……
無限回廊とは言うが、無駄にでかい屋敷だな。 そういうことなのか?
案内される廊下は中庭が景色変わる事無く見え続ける。
そこに黒髪の少年がいることが不思議に思うも、もう独り女が側にいることが違和感を覚えるのさ。
案内役の従者は口を開かず、付いて来いと仕草するだけ。
これはただの式神だな。

「撃ち殺してみようかな? 」
『ナリマセヌ! 』
口尖らせるアーニャに遊び心を否定され、黙々と何処かへ案内された部屋。
今回の主人と言う男と出会えたのは、そろそろ太陽が月と交代する頃合だったのさ。
長い道のりだ。
「久我の長兄とは、そんな華奢な男とは聞いて居らぬが? お前が久我のショロクイジョウと謳われる者かよ? 」
「知らんな…… 」

当主


その部屋には私を前に胡坐をかき、脱力のまま溜息を一つする男がおった。
帝國の人間にしては大柄な男、ソレに見合った長刀に黒袴……
小林家当主は私に失望のまま話を続けたようで。
「手短にすまんが言わせてもらう。 息子に辿り着けぬ。 息子は生きておる。 ソレしか解らぬ。 無限回廊を進むと際限無く魑魅魍魎が襲って来る 」
切りが無く息子の下へ辿り着けぬ。
「ほう…… 」
無限回廊が発動する意味が解らん。
言ってしまえば終わりの無い道筋。
こういうものは大抵因果関係があるはずなのだ。
「して当主よ? 原因は突き止めたか? 」
「解らん…… 謎のままよ 」
無能ゆえ強いのか? 強いから無能なのか? わからんな……
 「私が呼ばれた意味が解らぬ。 当主よ? お前は強いのだろ? 」
 「…… 」
 獅子脅しが鳴ると、当主は気持ちを込めて言った。
 「強さを試したいのか? 久我よ? 」
 「ソレも興味ないわけではないな…… 」
 二度ほど獅子脅しが音を立てると、私の胴体が左上部から右下と熱を持ちゆらりと滑り出した。
 アーニャも眉一つ動かさないまま正座を崩さない。
 私達にとってはその程度さ。
 解けかけた氷と氷をくっつけようと試みるも無駄と解るほど鮮やかでゆっくりな時間の流れの中。 上半身は仰向けに、下半身は据わったまま。
 私が切り込まれたと自覚したのさ。
 「避けることもせず切り込ませるとは鈍感なものよな? 久我よ…… 」
 「避ける必要も無いのでな…… 」
 切り込まれ胴体は天井を向くまま。
 そう言ったのさ。

「死なぬ体とは凄まじいな 」
 「不便でもあるのだよ 」
 当主よ? 私に切り込んだ刀は不思議だな。
 斬撃など見えず感じなかった。
 そして私達の前のテーブルも切り込まれてはいない。
 畳すらも傷ついてはいないのだ。
 「これは蘭丸と言う刀よ。 切りたいものを切る 」
 「面白いものを持っておるな 」
 『アキツグ様 』
 アーニャに抱えられ、ようやく体の自由を取り戻すと私も胡坐で座り込んだのさ。
 「中庭の息子は女とおるのか? 」
 「女? 俺には八千代の側に憑いているのは鳥獣の王に見える 」
 ふむ…… どちらが見えておるのか…… な。
 「飲み物など御用意致しました 」
 切り込まれた後に接待受けると言うのも妙な屋敷に感じてしまうな。
 『オカシ! 』
 「頂くと良い、アーニャには珍しいか? 」
 『帝國菓子モ洋菓子モ大好キデス! 』
 飛びつきたくもなるだろうに、無理に落ち着き手を伸ばす姿が私には不憫だ。
 私の立場や評価などはどうでも良いのにな。
 「久我の娘よ、珍しい物は多く取りそろっておるぞ。 遠慮せず手に持つと良い。 助太刀を願ったのは私だからな 」
 『…… 』
 私を気にすること無い。
 「アーニャの好きにして良いぞ 」
 『ダー 』
 テーブルの上に出された菓子を両手で静かに自分の元へ寄せたアーニャだったのさ……。 音を立てまいと隣でゆっくり菓子を食べている。
 「久我よ、俺の祓魔力では息子に辿り着けぬ 」
 見聞きせぬほどの獣もおるのだ。
 終わりの見えぬ中、俺は刀を振るい廊下を進んだが、気付けば元いた場所よ。
 狐に化かされておるのかと疑いたくもなるのだが原因は解らぬ。
 不死身ではないのでな。 戦いながら考える事も出来ぬ。

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