ふぃりあ第参話【蘭丸】参

ふぃりあ

 話

 

「旦那様…… 」
 酒に刺身と運ばれて宵が迫る頃であると思ったのさ。
 「久我よ? 俺と共に来てくれぬか? 」
 酒は頂くとするかな……
 「断る…… 」
 当主よ。 私のやり方に歩を合わせると死んでしまうぞ。
 だが行こう。 私が無限無き事を見つけようかな……
 「私だけで行ってみるさ 」
 「感謝だ、久我よ 」
 むさ苦しいとまでは言わぬ。
 杯を交わす男の顔が私には少し気に入らぬ。
 無限回廊と名付けられた始まりの間は地下からだった。
 中庭が見えていても辿り着けぬ回廊は、中庭から廊下側へ見えない力が働いている。
 中庭へ向かって飛び降りようとしても壁に当たった感触を味わうなど。
 体が切り刻まれたり、別の場所へ飛ばされたり、辿り着けぬこと複数。
 そして辿り着いた者はいない。
 児の食事を廊下へ置いておくと、不思議と食事する姿が中庭にある。
 獣の類は殺しきれないほどいて、屋敷に辿り着けぬよう地下入り口を作ったそうな。
 では一度見に行くかな。

地下牢

 「地下牢か? 」
 牢獄を思わせる雰囲気と言うよりもだ……
 入り口と説明されたのに、この場が屋敷へ続く道と解っておる人外がいる。
 両手をだらりと前に出す様は好きにはなれぬ。
 私の前に近付けば賽の目のように細かく切り落とされて終わった。
 「アーニャの糸は何時見ても素晴らしいな 」
 『私モ参リマス 』
 「待っておれ。 何度か独りで見て回ろう 」
 『ダー 』
 魑魅魍魎、百鬼夜行とは言ったものだな。
 この数戦い続け中庭を目指すのか。
 室内というのに数だけは数えるに時間の掛かるもの。
 屋敷の中だからな、燃えたら困るしな。 呼んでみようかな……
 右手で丸書いて、左手で円を縦に切るだろう?


 全く赤くも無いが赤鬼さ。
 腰まであろうかという長い黒髪を振り乱して片目だけ覗かせる男。
 全身を拘束する服を纏っているのさ。
 その中心部の鍵を私が開けてやると、やせ細った上半身は、ありがたいお経が書き連ねられておるんだと……
 「左ゑ門よ、お前の祭り場はあるか? 」
 「右手、左手、刀一本握り締め。 足元一夜…… 槍二本 」
 言葉をニ、三度ここに置き、獣の群れへ一歩二歩向かっていく。
 誰も左ゑ門に気付く事無く、大根人参切るようにごろりごろりと落ちるのさ。
 ありがたいお経のせいか、誰も見えないのだと……
 私には耳だけが見えていたのでね。 殺しやすかったのさ。
 ほらな? 体が赤く染まって鬼の出来上がりだ。
 こうなってしまうと、姿も見えるでな。
 刀二本に槍二本では持たないな。
 「戻れ! 」
 「三十と四くらい…… 」
 戻る間際まで殺した命を数えていたのか?
 鬼の子は何処までも鬼でしかないのかな……
 「先が見えんな? 」
 左ゑ門に切り込ませた奥まで見ても廊下は長いままだ。
 「酔い覚ましに歩いてみようかな 」
 和紙を投げ撫子を呼ぶ。
 「お兄ちゃん! 遊んでくれるの? 」
 「今日は迷い道におるでな。 撫子遊んでおいで 」
 「うんうん! 行ってくるねー 」
 獣道程度では止まる事等無い撫子だから、数刻ほどで帰るだろうと予想はしてみるものの。
 全力で両腕を振り回し、会う獣や人外を殺してしまうのは無邪気故に凶悪。
 撫子が駆け抜ける先は重苦しい悲鳴が上がるのでね。
 少し相手側に同情したくもなるな……
 紙屑が強風に吹き飛ばされる様を眺めて考えておったのさ。
 中庭に辿り着けぬ理由をな……
 「たっだいま! 」
 想像よりも早い声に疑問を持ったのさ。
 「お帰り撫子。 廊下はどうだった? 」
 「すぐ一周しちゃうね。 迷子になるなんて駄目な子だよー 」
 「すぐ? そうか。 迷いやすいものでな 」
 一度戻るかな……
 私には無限に思う道も撫子には直ぐに一周出来る距離というのが腑に落ちぬままさ……
 二週目は自分で行けるところまで歩いてみようかと、撫子をアーニャに預からせて歩いてみたわけさ。
 撫子が言う程、楽な道程など無かったわ。
 腕は一度落とされ、足も左右と食い千切られたのさ。
 常人では散策すること叶わぬ無限な廊下だとは理解したわけよ。
 「ふむ…… 」
 朝日も見えようとする闇が開ける時間であった。
 諦め小林当主と対話するわけさ。
 「一日二日で落とせぬとは思っておったぞ! 」
 肩を張り高笑いする当主は目的を履き違えた餓鬼よ。
 私には生憎自尊心と言う物が無いに等しいのでね……
 そのまま小林家の言い分を聞いたのさ。
 「八千代はな。 母を無くしたのさ…… あいつを産んだ日に直ぐ逝ったわ 」
 蹴鞠も遊びもしたかったのであろうな。
 俺の枕にも何度と立ち子供の安否を気遣う女であったよ。
 俺はあいつを愛していたし、このまま独り身で良かったのだ。
 不自由も無かったさ。 だけどだ?
 八千代が母親無き家庭ではどうなのだろうと考えることはあったのだ。
 久我よ? お前の様に不死を生業とするのであれば、俺の疑問や葛藤など解らぬだけかも知れぬ。
 ただ人とは…… 孤独と向き合うには弱い生き物だと俺は思うのだ。
 共感して欲しいとも、してくれとも思わぬよ。
 異国の地から流れ着いた女がおったのさ。
 それは黒髪の似合う、異国の女であった。
 これを助け匿う日々が続いたとき。
 俺は思ったのさ……
 八千代の母代わりにどうかとな……?
 逝く道も無い国に帰れぬ女だ。
 私には養う力も守ることも出来るのだからな。
 母親のいない世界を教えてやるよりも、母親のいる世界を用意してやるのが俺の役目と思い。
 この女を従えることに決めた。

 「それは解る考えだが、八千代は何を思うかだな…… 」
 母親がいた方が良い道理も解らぬでもない。
 息子がどう思うかはそれぞれさ……
 『母様ハ独リデス…… 』
 アーニャは親を知らぬし、作られた命だからな……
 撫子もアーニャの膝で眠るが、親には虐待され加減と言うものを失った人外よ。
 ここには小林家の話通じるものはいないのかも知れぬな。

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