ふぃりあ第弐話【ヂンカクノ果テ】参

ふぃりあ

 小雪

 「小雪よ、お前はあいつを愛していたのか? 」
 あいつはな、お前を本気で愛しているからこそ向き合ったのだと思うぞ。
 下らん感情だけでお前を都合よく使いたいのであれば、余計なお世話と思うこともされたりはせぬだろう?
 しかしな、お前のついた嘘というものは非常に厄介な毒なのだ。
 愛した女に隠され嘘をつかれ、それを後で知る男は不安にもなろうさ。
 そうすることを立ち止まって考える人間性があったのなら、お前は子も又八郎も殺すことは無かったであろうな……
 『アキツグ様、コノ病人ニ何ヲ伝エテモ無駄デゴザイマス 』
 「…… 」
 黙殺と言った所かな。
 都合の悪いこと全てお前は黙殺し、最期人をも殺したのか?
 面白い生き物だ純粋な狂気も私とは質が違うようだな。
 又八郎は私の手で葬らねばならなかったかも知れぬでな、あいつの気持ちを思えばこそお前は生かしておく事が今回救いになるのかも知れぬ。
 「邪魔したな 」
 最期にあいつの残した恋文と花をお前に贈ろうか……
 大した物でもなかろう?
 この和紙をな? お前の部屋に数枚敷くだろう?
 「季節外れの鬼の華と梔子の協演さ! 」
 お前の部屋四方に飛び散った和紙はな?
 丸が書いてあるだけさ、その中に久我の家紋ではないが。
 五芒星を書いている、体に合うというのかな。
 しっくりと馴染むのよ。
 ほらな? 又八郎の部屋に敷き詰められた血塗られた花々が咲き乱れるぞ?
 「こ、れは…… 」

 「梔子の花だ。 少し痛んでおるかも知れぬが季節外れの鬼の華に梔子の花よ 」
 お前が全ての罪も困難も改めて児を産んだのなら……
 又八郎がお前に贈るつもりで一生懸命育てたのであろうな。
 此花の言葉をお前は知っておるか?

 【とても幸せです】
 【私は幸せ者】

 と言うのだ……

 お前は自らの罪を償うことも、向き合うことからも諦め。
 黙り続けては殺し合いを続けた。
 言わば狂人であろう?
 又八郎は最初で最期の芝居を失敗したのさ。
 浄瑠璃という人形芝居の幻想から解き放つための芝居にな。
 お前を信じ最期まで子を殺さぬと思って芝居を打ったのであろう。
 でもお前は又八郎と一緒に居るために鬼の華を喰ったのだな?
 そして一緒に居ないではないか?
 狂人に向き合う精神が又八郎には無かった……
ソレだけの事よ。

 私が贈るものが一つ。
 曲を聴いてはくれまいか?
 「別れの曲というのだそうだ…… 私は又八郎へ。 又八郎はお前へといった具合にな。 この曲が私とお前の、お前と又八郎の今生の別れよ 」

 「この、音…… 」
 「知っておるか? ピアノと言うのだ。 悲しくも美しい曲だろう? 」
 小雪の部屋はあたり一面に鬼の華と梔子の花が敷き詰められた。
 私のばら撒いた和紙の中から最期にピアノの曲が部屋を支配する。

 

アーニャハ許セナイ

 「又八郎様が亡くなった今。 私も生きていても意味はありませぬ。 どうかあの人の友人として私を葬ってくれないでしょうか? 」
 『都合イイ事バカリ並ベ甘エテ言ウナ! 全テ、オ前ノ子供染ミタ狂気ノ世界デハナイカ? 何ヲ今更申シ立テル! 死ニタイナラ自分デ絶テ!! 』

 「恋文をここにおいて置くぞ 」

 前略
 小雪殿
 我は幸せであったよ。
 純粋な何処までもお前はそうであった。
 良くも悪くもな。
 ただ我はお前を信じ生きるというのが、どうしても出来なかったのだ。
 小さな嘘の積み重ねと、何も告げず何処かへ消えてしまう身勝手が……
 我には辛いことであったよ。
 強く心を持てたなら許せたものなのにな。
 信じるということは難しく悲しい日々であった。
 ずっと我が騙されて我だけが辛い思いをして生きれば良いのだとも。
 あぁそう思ったのだが……
 どうしても嘘をつかれる日々や隠し事をされた日が振り払えずに、お前を試す芝居を打ってしまったのだ。 辛かったであろう。
 脆く弱い我を許してくれとは言えないのでな。
 我は少し早く我が子に会いたくなってしまった。
 沢山の思い出をありがとう。
 好きなことをして生きる。 それもいいと思うのだ。
 その為に嘘をつき隠し我を騙したのはきっと……
 我よりも大事だったのだろうな。
 愛していたよ誰よりも。
 だからさようならだ。 体にはくれぐれも気をつけて幸せになってくれ
 早々

 読んだところで顔色一つ変えないのは立派よな。
 お互いにしか解らない共有した時間があろうに……
 「アーニャ、帰ろう…… 」
 『先ニ外デオ待チ下サイ…… コノ女ニ話ガ在リマス故 』
 「解った。 殺すことは成らぬぞ。 贖罪の血を持たぬ生き物よ…… 生かせ 」
 『ダー…… 』

 アーニャは思う。
 同じ人間としてここまで違うもの?
 私は久我家に買われ臓器を移植する為に生かされた。
 その為だけの命として久我家は、私を買い取り貧困の果てから……
 結果救っていただいた。
 お前のような何不自由なく好きなことだけをして生きて、愛するものを紙のように扱い捨てる生き方が羨ましいとは思わない。
 この国があまりにも平和すぎるゆえ、お前のような生き方や思考も生まれるんだろう。
 世界の殆どは狂気の中で支配されている。 生きる先は絶望しかない子供達が沢山いるんだ。 私もそうだった。
 なんで生まれた先が違うだけで、努力もせず一生懸命に生きようともしない。
 同じ人間なのか? それが私には許せない。
 お前は生まれる場所も恵まれた。 私の国には浄瑠璃なんてものもない。
 お前よりも私は生きてはいないのに。
 お前の生きた時間の遥か先、努力しあの人と共にいる。
 殺すことが許されない。
 私に出来る事は、お前の美貌をそぎ落とすだけだ。
 そして二度と子を宿さぬよう産めぬ体にしてあげる。

 『見エル? 私ノ手先…… 光ッテルダロ? 』
 「熱い…… 」
 『胎ト顔ニ銀ト金ヲ混ゼタ糸ヲ打チ込ンダ 』
 今後お前が腹に子を宿すことも無い。
 笑顔を作る度に激しい頭痛を引き起こすようにさせてもらった。
 『オ前ガ言ウ事ヲ出来ルダケ、本当ニシテアゲタダケ 』
 「…… 」
 『同ジ人トシテモ、女トシテモ。 私ハオ前ノ事ヲ許セナイ 』

 生きたまま地獄を喰らい続け贖罪したらいい。
 アキツグ様の元へ帰らなければ……

 『スマーサショール…… 』

 「…… 」
 とんてんしゃん てんしゃん ちんとんたんてんとん
 とんてんしゃん とんてんしゃん ちんとんたんてん

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