ふぃりあ第壱話【猫叉しゃん・・・・・・】弐

ふぃりあ
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売春宿ニ参ジル

 駅について参じたのは売春宿の頭目なり。
 「あぁ、こういう場所に縁無いものだから緊張してしまうね 」
 『ナリマセン 』
 頬を膨らませるのは帝國でも露西亜でも変わらぬものか。
 出来るならアーニャにこんな世界など見て欲しくは無いものだ。
 「陰陽寮の正六位上の方…… 久我の人で在られますね? 」
 くっ……
 たかが売春宿の元締め如きアブラムシの(ゴキブリ )頭目がこの語りとは、吐き気も頭痛も治まらんな。
 クタビレタ野菜と変わらぬ見た目が、私の心を黒くする。
 女だろうか? 声からするに?
 解らないほど老いとは複雑か?
 『ショロクイハ、マチガイナキコト。 コヨイノケンショウガ、モクテキデゴザイマス。 ユエ、ワタシノアキツグサマニ、マチガイナキヨウゾンジマス 』
 売春婦を私に近づけるものなら一思いに殺してやるぞ。
 そうアーニャは言ったのか……
 な?
 ふむ良い愛情表現で心地よい狂い言葉であるな。
 「今宵の招き入れは、何を持って参じたか? 私の興味に叶う代物を、止まぬ期待があるのでね? 少し話を聞き入れよう 」
 こう言う私も息苦しいものだ。
 話を聞くも、興味無かったら私は帰るで良いであろう?
 そう思うもまぁこの女は面倒事を、迷いの無い筆を走らせる如く止まらないのだ。
 「あちきの身内にこれがいて、仲間内に混乱を招く災厄なり 」
 難しい近代語だ。 笑ってしまう。
 取り合えず困った何かが身内にいるのだろう?
 「ほう? 」
 下らん説明の時間は飽きたのだ。
 売春宿に囲まれた一角に、それは大層立派な平屋があるもので、見ようとも思わないが眼を開いてみたら不思議な童が居るわけだ。
 注連縄? (しめなわ? ) 現世と何を隔離しておる?
 「お初に見えますは…… 」
 売春宿の無礼など気にもしない私に、10の数にも満たない餓鬼は啖呵切るものか。

 『大和撫子デスネーーーー 』
 両手を広げて前に出し童に飛び付くのは見事だ。
 アーニャは畏まった語りの以外は流暢に喋るものだ。
 童が気に入ったのか?
 それが望まれず産み落とされた欠片であってもか……
 静止すること叶わぬ、アーニャの子供好きは許せるからな。
 薄手の柄物は銘仙と解る着物に、人形のような髪型とくれば、産まれて来ただけまだましかと私は思う故。
 両手で抱きしめるアーニャを止めること望まぬ。
 汚い座布団も許せるものだ。
 見た目の話ではない、この淫売の質感が感覚狭い私に肌を惑わせるのさ。
 「ふむ…… 童よ。 主が此度の的 (話の元 ) か? 」
 「わかりませぬ…… 」
 膝元に置いた手をぶれさせぬ童が、私の興味を引き付けたのだな。
 見ようと思い見てみれば童は銀(しろがね )に見えるのだ。
 此度の落とし所が見えると、殺すのか殺さぬのか……
 アーニャのせいで気持ちはブレて動けなくなる。
 その童の脇に、私にだけ見える液状化したナニかが気に掛かるな?
 『フォォォォォ! オカッパ頭! カワイイノデス! 』
 ふむ……
 アーニャは今回、壊れたままなのだな……
 抱きしめて側を離れようとしない恋人は放っておくとする。
 「貴様に問う? その側にいるものは何ぞ? 」
 攻撃されようも、私も死なぬは恋人も死なぬ仲なのでな。
 興味の真ん中を問うてみたのだ。
 「これはあい、すみませぬ…… 猫又様でございます。 あちきのお守り様でございます 」
 低俗如きに守り神? 解せぬなと思いたくもなるが、人を捨てた私の恋人も側にいる故。
 何が事柄を変えていくかは解らぬ闇宵に私は迷うものさ。
 「その神は主の守護か? 」
 まぁ興味無くも無い奇跡であるから、私は疑う事無くこの童と相対してみようかと思うのさ。
 「存じませぬ。 猫又様はあちきに本当を教えてくれるだけです 」
 アヤカシとも認められる物の、生殺与奪には判断しかねる。
 私は暫く童の話を聞いてみるかと質問を投げると決めたのさ。
 「主はどうしたいのだ? 主はそもそもどう生きるのだ? 」
 「あちきは母様の様には成りませぬ。 生きるとは考え信じる事と猫又様は御言いです。 あちきは母様の生き方は出来ませぬ。 あちきはあちきの何かがあるはずですえ 」
 「餓鬼よ? 母様を侮辱した上の判断か? 母様は何処で見守っておる? 」
「母様は山麓に桶を抱えて壊れております。 猫又様は母様の産み落とし。 あちきの姉か妹じゃ。 兄か弟かも知れませぬ。 あちきは猫又様を手放さぬ 」
 その歳にしてこの世界の真実しか見て来れないとは過酷なものだな。
 遊郭という汚らわしい世界で嘘を知らぬ、受け入れぬと言うのは心が壊れそうなものだ。
 「御家人辺りが落ちた先か、それは思うに親にも責任あると解るまいか? 」
 「解っておりますえ、あちきの存在もつまらぬもので…… 」
 怪奇複雑はいつものことよ。
 私が山麓を行けば良いと、その銀色の何かも言っておるのか?
 そこはそこはで面白いではないか。


 「アーニャ? 童の側にいろ。 私が帰るその時まで 」
 『ソバニオリマス! 』
 「ならぬ。 此度は童と共に在れと言わせてもらう 」
 『マツノハ、ヒノデ。 ソコカライチニチマデ! デゴザイマス 』
 「良いとも。 私は死せず帰ろうお前の元へ 」

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