トアル病院
私の仕事は相談屋でも呪い師でも無ければ、霊能者や祓魔師と言う者でもない。
言いえて妙と言うのかな……
陰陽寮から金は貰っているが、仕事の種類といえば解らないのだ。
つまりは社会的地位が無いに等しいのさ。
なのにだ? 迷惑な事に神位と言う位を久我家は持っている。
長男に落ち着いている私は正六位上と言うお偉い人の位を持っておるのさ。
神でも無いのだがな……
これに付随して与えられた特権がまた可笑しなもので、犯罪者及びアヤカシを生殺与奪する権利を持っている。
事に至れば、陰陽寮へ報告するだけで見合った金が支払われる。
逆に朝目が覚めると不思議なもので、三途の川の砂利浜にいたり。
巨大な三つ首の犬に追い回されたりとするのだが……
陰陽寮が何を図り私共に権限を与えたかは今はもう興味も無く慣れてしまったのさ……
そんな或る日の一日が今回の出来事よ。
今回はそうな。
町医者とでも言うのかな……
帝国の外れにある病院が私達を導いたのさ。
大変評判の良い総合病院で、子供からお年寄りまで死ぬまで生きられると評判なのだそうだよ。
死ぬまで生きられるって……
そこに疑問を持ったりしないまま、面白いと判断しては患者が気を許すのだろうか?
こういう子供染みた言葉遊びとでも言うのか?
私は好かんな……
『死ヌマデ生キラレルッテ…… 』
箸が転げても可笑しいお年頃だからな、解らんでもないのだが……
「アーニャ、数ヶ月で20名が死んだんだとよ 」
『死ヌマデ生キタノデスカラネ! 』
今回はこういうノリでアーニャは私に着いてくるのか……
「では評判の町医者へ顔を出そうかな…… 」
『マイリマス! 』
それはただ変な感性の医者が見たいだけでは無いのか?
そうも思うのだが、どう言っても着いてくるであろうしな。
町外れを目指すのさ。
私達は国を守るとか、市民を守るとか。
そういう高い志も無いものでね。
暇な時と言うと、少し自分達がだらしない様に言ってしまうが……
このように自由な時間もあるのだよ。
毎日が修羅の道を作り上げ駆け抜ける訳でもないのさ。
『萌花モ一緒ニ連レテ行クノデス 』
「あぁ、それも良いかも知れんな 」
萌花とはある温泉宿から拾った女でな……
私の養女にあたるのさ。
アーニャは姉だろうか…… 母役かも知れぬ。
解らんのだが言える事は一つだな。
萌花の本当の母親は私が一刀の下切り殺した……
天涯孤独のこの女を私は連れ帰ったのさ。
萌花
「アキツグ様、私も御一緒でよろしいのですか? 」
「言葉改めず崩して良い。 お前はまだ子供であろう 」
「主人に歯向かう言葉を持っておりませぬ 」
「少しずつ慣れたら良い…… 私を主人と思わずでよいのだ 」
『オニイチャン! ッテ呼ンデモ良インダヨ? 』
「おにいいちゃ…… 」
恥ずかしがる気持ちがあるのか、私をお兄ちゃんと呼ぶのは無理があるだろう! と思うのか思い当たる節があるのでな……
私も上手く助けてやれなかったのさ。
「好きに崩して言葉を使うと良い…… 」
着物娘を両手に花として、私はグレーのスーツにブーツで出掛けます。
鞠を抱いた少女に、紫色と黒を着こなす露西亜の女。
丸眼鏡にネクタイで歩くだけなのだが……
いつも落ち着かないほど周囲の視線が刺さるのさ。
浮き彫りになるほどの身分もぶら下げて歩くのでね……
職員や憲兵に目撃されれば声を掛けられることも在るわけさ。
もう私達の時代、刀を持ち歩く輩等いないものでね。
顔を憶えて貰うまでは目的地に辿り着くことも難しかったものよ。
「御機嫌よう…… 久我様 」
「あぁ…… 良い天気ですな 」
この様に今では難は無く、一言二言挨拶しては通り過ぎる。
中々に便利な身分でもあるのさ……
「ショロクイジョウの久我様で? 」
とこの様に歓迎せぬタイミングで女が声掛けてくる事もあるからな。
便利と言っても不便であるのさ。
『女…… アキツグ様ニ用カ? 』
年頃の娘が来れば理由を聞くまでアーニャは冷たい顔をする。
私の視力はほぼ無いのでね……
どんな女か見たいと思わぬ限りは見ないのだが……
「背中に人面祖があるのです。 八方塞呪いの鎖に悩んでおります 」
何故? こういう者共は可哀想な私をどうにかしてくれと私に言うのだ?
『ソレハ呪イデハナイ…… 』
アーニャが女の着物を引くと、胸元の和紙を二枚取り出して女の背中に入れてやったそうだ。
「おねえちゃん? お腹の中の赤ちゃんがお腹空いたって言ってるよ? 」
萌花に言われた女は、納得が言ったのかその場に膝を落として顔を隠す。
『今度ハ産マレテクル様ニ、シッカリ御飯ヲ食ベナサイ 』
流れた子供に揺り篭を…… お腹の子供に子守唄……
『私ノ願イ事デ足リルデショウ…… 』
アキツグ様に詰まらない相談を持ちかけないでおくれ。
とアーニャは思うのさ……
「ありがとう御座います。 有難うございます 」
周囲を気にせず泣く女は安心したのか金を探す素振りを見せる。
『私達ニ払ウ、オ金ハイラナイカラ…… 』
そのお腹の中の子に使ってあげて。
「有難う御座います 」
ここまでの流れで、やっとアーニャが優しい女の顔を魅せました。
母になる女を抱きしめたアーニャに安心したのさ。
ん? あの女が演技だけで金を支払う気が元々無かった?
残念だがな……
萌花には銀色の水が真実を教えてくれるのさ。
萌花は猫又様と呼んでいるのだが、私には水銀と粘土のような物体にしか見えないのだがね…… まぁ、はいか? いいえか? くらいは解るのさ。
地元を歩いているだけでも、この様に厄介は寄ってくるのでね。
目的地に時間通り着くことは少ない……
と有名人を気取るわけではないのだよ。
「あっ! 水飴だ! 」
道行く先々で萌花もアーニャも珍しい物や甘い物で足を止めるのでな……
買ってやりたくなるのが親心。
体系気にするのは女心。
私の世界は退屈少なく出来ているのさ……
「これをね? こうやってこうやって…… 」
両手で棒を持ち中心部の水飴を色が変わるまで混ぜるのが好きなんだと。
初めて遊び出した時は、二人とも水飴を落としてしまって落胆していたな。
着物の裾を気にしながらも、水飴を掻き混ぜて歩き始めることが出来ました。
町外れを目指して来てみれば、例える必要も無い中が解らぬ材質のガラス。
ただそれだけの白い建物さ。
何処にでもあるその病院が特別大きいでもなく五階建てと言うだけだった。
診察時間を見てみれば余裕もあるので、診てもらう必要の無い私達も診てもらおうかと思いましたとさ。
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