ふぃりあ第壱話【猫叉しゃん・・・・・・】壱

ふぃりあ
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はじまり

紅茶や珈琲という物を嗜む様になり、味覚があって良かったとも思うわけだが、

潰した筈の視覚は相変わらずで見ようと思えば見えてしまうことが少し不快ではあるな。

『ヲテガミデス 』

この人は私の最愛の人、着物の似合う異人であろう?

ついでに言えば死人だ。

アーニャが寄越すよこ便りは、【うらのつかさ】 すなわ陰陽寮おんみょうりょうからの御言付けおことづと言うものだ。

正六位上と言う地位と、犯罪者及びアヤカシに置いて生殺与奪の権利を私達、久我家は与えられている

【うらのつかさ】 の犬でもない。
興味ある話なれば足も向くというもの。

「アーニャ、読んでくれるかな 」
『ダー 』

こういう回りくどい、文章が先ず嫌なのだ。

嘘の通じない子供がいて、その付近にアヤカシがいるというのか?

アヤカシの子供かも知れないと帝國は目をつけたのか?くどいな……

断るという権利も欲しいものだな。

最近着ている洋服というのがどうも慣れないのだ。丸眼鏡は気に入ってるのだがね。

着こなす目的で旅にでも出ようと、ネクタイとやらを巻いて出向こネクタ

「アーニャ、出るよ 」
「ズットイッショデスヨ 」
「あぁ…… 死が別つ事も無い 」

汽車にて

白銀のような肌、緑の瞳、銀髪に近いが黒髪の露西亜人、それが着るも着たりと帝國の服装なのだから派手で目立つ。

私にとって特別なアナスタシアは何よりも素晴らしく愛おしい。

私はスーツを着てブーツを履いた。蘭丸と名の付いた十束剣(とつかけん ) を帯刀して
売春宿で名の知れた山を目指そうかと思う。

汽車に乗るのも久しいな。

帝国の使いは、うらのつかさ正六位の私に帯刀を注意すら出来ない。そういった意味では陰陽寮も気の利いた事はしてくれている。

アーニャが側にいるだけで目立つ車内は、車窓の景色の移り変わりよりも一層に複雑な人間の視線を集める。

それは退屈なものでもなく、アーニャの人懐っこい性格は子供だけに向けられるもので私の心を穏やかにするのさ。

この時代と言うのか、この国は奇怪な者も混ざっており、汽車の勢いが衰えていると思ってみれば山間の穴道にてソレが待ってたようだ。

完全に停止した汽車は、筋肉と赤茶けた肌の獣に行く道をふさがれていた。

「おぉ、鬼と呼ばれる部類の生き物かな? ん? これは生き物なのかな? 」
『ワタシガ、マイリマショウカ? 』

アーニャは死人だ、もう死んでいるから故死なぬ……

それでも私はアーニャを先へ行かせることはしたくは無いのだ。故私もまた死なぬ。

「いや、私が殺してみよう 」

武芸など知らぬ、丸眼鏡のインテリに見られるようだが文化に馴染めぬ狂人の一人。その程度さ……

汽車から降りて刀を抜く前には認識するよりも早く私の左足は、巨大な手に引き千切られてしまった。


瞬間の血飛沫が見事と言う他無かった。

そのまま私は闇の中の地面に転がされたわけさ。それを見た人々、恐怖が乗客を襲ったわけだ。

誰とも無くほざく輩はいるものだ。

「旦那さんが殺されたぞ! 」
「汽車から降りるな! 」

紳士も淑女も血には平等か?わあとか、きゃあとか、こういう声も聞き飽きたものだな。

やれやれ、私の脚なぞお前が食えるものなのか?

服を破り盗られずに済んだのは幸いにして至極だな。

ふむ、脚も生えてきたようなので暗闇の奥に会ってみるかな?

『オヒトリデ、イカナイデクダサイ 』
「あぁ見えない距離に行ってしまうかな? アーニャも来るかい? 」
『マイリマスユエ…… 』

汽車の扉を開けること無く、アーニャは汽車の外へ降りた。

アーニャの空間移動がどういう理屈なのかなど興味も無いのでな。

いつか本人にでも聞いておくれ。

止まった汽車の先頭を線路伝いに歩いていくと、やっと私の脚の残骸が見えてきた。闇に慣れた私の見ようとする瞳は、野犬のような顔つきに瞳が七、八個と言う面構え。

赤茶色の肌ではなく、獲物の血が酸化して赤茶に染まった肌。

体系は本等で何度か見聞きした、おらんうーたん。

もしくは、ごりらといった獣に似ている。

犬歯の群れが二重にも三重にも口に広がったそれは、生物としても大分歪んだ進化の果てなのは理解できる。

「先ほどは私の脚を食べてくれたようで…… いやはや、好奇心とは恐ろしいものでな 」

一撃で引き千切ったのだ。 私と言う雑魚の言葉に彼は耳を傾けること無く、私の脚にかじりついている。

まぁ私のような弱者の言葉など聞く耳も無くか? それはそうだ、笑ってしまうな。

食事の邪魔をする気は無かったのだが、これ以上の興味は沸かないまま蘭丸を抜いた。

片手で振るには長く重いものでね……

まだ慣れていないのさ、ぴすとるも持ってはいるんだが、感触が伝わらないのはどうも好きになれなくてね。

春画と一緒さ、二次元の色物を見て興奮できんのだ。

「ご挨拶にこちらを 」

中腰で話掛けてあげたのは、良いですか?

私は今君を殺しますよ?合図というやつさ、うん正々堂々だろう?風を切る音は聞こえたか?

見えないだろう? 私の刃が……


「あぎゃ! ぎゃああああああああああ! 」

幾つかある目玉を縦に切ってやったのさ。声を掛けてあげたのになあ…… 悲しいことだ。

私の脚を食べ終わったのかな?両手には私の脚が見当たらないようだ。

一張羅とは言わないが洋服と言うのは中々に貴重でね。

私も機嫌が良くはない。

私達を中心に距離を測りつつ彼は私達を殺そうと狙っているな。
どう殺してくれるのか非常に楽しみではあるが遅いんだ。

「さよならだ 」

私に剣で貫かれた事も理解できなかったろう?
時が止まったような刹那であったろう?
声すら出せないのは教えてあげよう。
首と胴が離れてしまっているからだ。
面白いだろう? 洒落た死に方だ。

「これは少し愉快とも言える 」

鈍く重い音を立てていくつも潰れた目玉の顔が、地面に落ちるとごろんごろんと絶命の時まで胴体と首が蠢いた。

『カワイソウデハナイデスカ? 』
「そうも思えなくも無いな 」

使い慣れない、ぴすとるをかちかちと空打つ音が響くまで、暗い闇の中線路に横たわる胴体へ向けたのさ。

動かなくなったそれを見て汽車の邪魔になるまいか?

優しい私は考えた。蘭丸の刃先を和紙で一拭きすると汽車での出来事を思い、頭上へ投げた。

すると不思議なもので和紙は折り鶴へ変わり陰陽寮へ届くとさ。

はいからで、素敵なものだ。

もう一匹くらいは何かいても良いのではと、周りを見るも私の見たいものは見えないようで諦めて汽車に乗り込んだ。

その瞬間の空気感が冷たくて、民衆の言う事は間抜けさ。

「あ、あんた生きてたのか? 」
「えぇ、まぁ 」

この禍々しい物を見る目もまた退屈ではないな。

ふむ…… 目立つ日も多い事だ。
目的地まではアーニャの膝で眠りましたとさ。

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