ふぃりあ第弐話【ヂンカクノ果テ】陸

ふぃりあ

徳手勝手

 「どれ小雪の速さについていけそうもないのでね 」
 ズボンのポケットから和紙、数枚地面に放るだろう……
 落ちたと同時にこうさ。
 一枚目は白い大輪の花が咲く。 二枚目に葡萄の蔓が絡まりながら弓矢が現れ。
 最後に赤い髪の女が上半身だけをこの場に見せるのさ。
 恥ずかしがり屋なものでね、気にせずとも良い。
 どうせ直ぐに消えるからな……
 「曼朱沙華よ、狩りの時間だ。 羽を落とせ! 」
 この赤髪の女は鬼に近い生き物よ。
 白い花を摘むと右手で頭に飾り、葡萄の実を口にしながら弓矢をゆっくり引く。
 「小雪よ、持てる力の全てを発揮せぬと痛い目見るぞ 」
 小雪の姿に蜘蛛はおらぬ。
 曼朱沙華の引く弓に矢は三本、右手を引ききった位置から指を離すだけ。
 ここからが美しい……
 三本が十にも百にも増えていくのさ。
 初めて見たときは私も避け切れなかったものだ。
 小雪は篭の中限界ギリギリまで、飛び回り月明かりに向かって高く上る。
 百が三百に五百となって、幾つあるか想像付かない矢に次々と刺さっていく。
 「ああああああああああああああああああ! 」
 「これはこれは…… 針の山の頂上に彼岸花か! 」
 小雪の死化粧以外、白い着物は紅く染まり針の山が姿をみせた。
 仰向けに両手をぶら下げた芸術の出来上がり。
 曼朱沙華の頭に飾った花を小雪に投げる。
 途中花弁は舞い散り、紅く染まった小雪の体に落ちた。
 「死にたくない…… 」

 「お前は騙し隠し人の心を殺めたではないか? 楽な方へ逃げ、関わる人の痛みすら想像したこともあるまい 」
 『アキツグ様…… 』

 あぁ……
 アーニャ、疲れてきただろう。
 蜘蛛を始末して帰ろう……
 思った私の行動が止められた。
 「動かん…… 」
 気付けば私も蜘蛛の巣の中…… か。
 屋敷の中へ動かない体のまま引きずり込まれたわけさ。
 「アーニャ! 篭を壊さず待っていろ 」
 『信ジテ待チマス 』

逃ゲノ末ニ

 そしてまたピアノの旋律が大きくなり、小雪の部屋に連れてこられてしまった。
 以前動く余地などないままなのでね。
 さてどうしようかな?
 「う…… うぅ。 嫌だ、嫌だ、嫌だああああああああああああああああ! 」

 私の隣に死に掛けた小雪が断末魔の叫びの中、胎を喰われ痙攣している。
 動きが止まると死んだのだと思ったが小雪の声が耳元で聞こえた。
 目をやると動けぬ私の視線の先に顔だけ小雪の蜘蛛がいた。
 「不快な姿になったものだな 」
 「黙れ! お前たちが私の全てを奪ったんだ 」
 こう言える猟奇的な精神性がお前の生き方も死に様も決めたとは考え及ばぬのか?
 元を辿っていけばお前の軽率さが大きな事故に繋がったのではないのか?
 小さな嘘から、事件を繰り返し。
 反省したフリをしては、物事を隠し騙した。
 相手を信じると言いつつも、またその裏で騙し。
 嘘をつき、胎の子も殺した。
 「知らない…… 」

 狂気の沙汰ほど面白いものはないかも知れぬ。
 ただ喰らう方は地獄よ。
 その地獄の沙汰も金次第とも言うな。

 「蘭丸は妖刀と教えたろう? 」
 こうやって身動きをとれぬともな……
 「ば! ぁ…… 」
 なんだ、自分の脳天に蘭丸の刃が降ってくるとは思いもしなかったか?
 「さようならだな 」
 小雪を貫いたままそびえ立つ蘭丸に体を近づけたのさ。
 ほらな? 私の体に巻きつく糸を切ってくれるのさ。
 「やっと自由だ…… な 」
 まだ瀕死の蜘蛛の骸に和紙を貼るだろう?
 ほらな、今回は大きなヤモリが【裏のつかさ】に持って帰るそうだ。
 「この曲の終わりまで待ってくれ 」
 ヤモリが小雪の顔をした蜘蛛を銜えて曲の最後まで待ってくれたとさ。
 割れた顔から涙を流しているのは、最期に何を泣いたのか気になったのさ。

 「又八郎よ…… 」
 お前はもしかして、梔子の花を小雪に贈るではなく。
 自分の死の間際まで、小雪と向き合い、小雪を想い。
 考え悩み苦しんで……
 【私は幸せ者です】
 そう伝えたかったのか? 

 『アキツグ様…… 』

 又八郎様は二年間、病人と向き合い。
 いつ心が折れてもおかしくなかった。
 あの花に囲まれていたのは今までの事もあった上で。
 自分自身に【私は幸せ者です】と思い込む事でも存在してたのではないですか?

 「アーニャ、深いな…… 」
 『私ガ深イノハ、アキツグ様ヘノ想イダケデス 』

 常識とは違う狂人。
 常識とは違うものを好み、違うことをする。
 その死に方もまた常識破りであったとさ。

「帰ろう、アーニャ 」

とんてんしゃん とんてんしゃん ちんとんたんてんとん
とんてんしゃん とんてんしゃん
 ちんとん
 たんてん
 とん

おしまい

コメント

タイトルとURLをコピーしました